メディアなどからプロスポーツ選手が「イップスにかかる」という話題を誰しも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
「イップス」はプロスポーツ選手に限らず、アマチュアスポーツでも、音楽家、画家といったあらゆるジャンルに起こりうることです。
では、「イップス」とは何なのか?から解説していきます。
目次
イップスとは
「イップス」:動作時に突然硬直し動き出せなくなったり、重い通りの動きや意識が出来なくなることを指します。普段の練習では出来ている動作が、試合に限って動けなくなることもあるようです。
元々はゴルフ用語で使われていたものが、次第に他のジャンルでも使われるようになっていきました。
起源:1927年全米オープン、1930年全米プロ選手権、1931年全英オープンを制したプロゴルファー『トミー・アーマー』(スコットランド)がある日突然緊張のあまり手の震えやけいれんが出て、ショートパットをしたり、カップのはるか遠くにオーバーしたりとパターが思うように打てなくなってしまい1935年半ばにトーナメントからの引退を余儀なくされました。アーマーは自らの症状を形容したのが、子犬がキャンキャンと鳴くような「yips」(yipはひゃあ!とかうわっ!といった意味です)と言われています。
イップスにかかった例
- メジャーで3勝しているプロゴルファー『ベン・ホーガン』(米国)もまた、パターのイップスに悩まされ引退を余儀なくされた選手の一人です
- アルゼンチンのテニスプレーヤー『ギエルモ・コリア』は世界ランク3位に位置していながらサーブのイップスに悩まされました
- プロ野球の『田口壮』はイップスが原因で守備コンバートを余儀なくされた選手です。ただコンバート後活躍した選手でもあります
- 弓道では、イップスのような症状を「早気(はやけ)」(弓から矢をすぐに放ってしまうこと)や「もたれ」(なかなか矢を放てず動けなくなること)と言います
- 美容師が突如ハサミを使えなくなることもあるよです
- 他にも色々なジャンルで突如思うように動けなくなってしまうことがあるよです
選手生命も脅かし、突如発症する「イップス」は未然に防ぐことができるのでしょうか?
もしイップスにかかったら治すことはできるのでしょうか?
治療
イップスは日本イップス協会もあるほど悩んでいる人は多くいるようです。日本イップス協会では、精神的な症状といわれております。明確な治療法はなく、治すのではなく受け入れ克服していくので、発症からすぐ克服できる人もいれば、数年、数十年かかるケースも珍しくないようです。
イップスにかかりよく行われる治療法としては、失敗した場面を直視することから始まり、無意識に体が拒否反応を示しているので、小さい成功体験から積み上げて自信をつけていくようです。しかしこれは精神的に覚悟がいり開き直ることもあるようで、それによって新たな精神負荷をかけてしまう恐れがあるようです。また精神的なものではなく、運動障害であるジストニア(脳の活動異常による持続的な筋収縮)が疑われる場合には、医療機関にて治療が行われつつあるようです。
トミー・アーマーの教え
トミー・アーマーは引退後レッスンプロとして活躍しています。
レッスンプロになり、アマチュア達に向けて次のようなことを話しています。
①アーマー:「アマチュアの多くはゴルフにおける重要な事柄をおろそかにし、枯葉末節ばかりにとらわれているから上達したくても出来ないわけです。私はアマチュアの皆さんに、このことだけは身につけてくださいという大事な事柄だけをお話しします。あとはこのことだけを念頭に、余計なことは一切考えずに練習するだけです。そうすれば誰でもシングルになれます。難しいことは何もありません。シンプルにゴルフをとらえることです。」
アーマー
ハム
②アーマー:「まずはグリップです。グリップが悪ければ、良いスイングは出来ません。次にアドレスです。構えが悪くても、良いスイングは出来ません。ショットに応じた構えが必要です。要点を極力少なくしていきますが、お願いしたいのは、その要点をその場ですぐやってみることです。クラブ(基本的には8番アイアン)を手にもって読んだことをすぐ実践してみてほしいです。そうして家の中や庭で素振りをして、それから練習場でボールを打てばいいのです。ハイハンディーのゴルファーは一様にグリップが良くないです。そのためにスイングが上手くいかず、ミスショットを多発してしまうのです。クラブが上手く動き、体が上手く動くためには、クラブを正しく握ることです。」
アーマー
ハム
③アーマー:「まずは左手です。左手を開き、人差し指の第二関節の上から小指の付け根の下の部分にかけて斜めにクラブをおきます。こうして小指から、薬指、中指、人差し指を包むように握ります。親指はクラブの右サイドに被せるようにおき、人差し指と親指は絞り込みます。そのV字は右肩を指します。次に右手です右手の小指は左手の人差し指の上に重ねるようにし、右手の人差し指はクラブの右サイドにしっかりあてがい、右手の親指付け根は左手の親指をおさえるようにしながら、クラブの左サイドにおきます。右手人差し指と親指でできるV字も右肩に向きます。右手と左手は一体になります。」
アーマー
④アーマー:「グリップができたら、クラブヘッドを上下させて手首のコックが楽に動けるようにします。右手と左手は常に一体化し、左手は小指、薬指、中指で握りクラブをコントロールし、右手で力を与えるというその動きを調和させるのです。つまり、スライスが出ようが、フックが出ようが、それは左右の調和が出来ていないからであり、決してグリップは自分勝手に変えません。この正しいグリップが出来ているのなら、正しく体が動き、正しいスイング軌道になるはずなのです。気をつけるのは、トップで左手のグリップが緩まないことです。」
⑤アーマー:「次に構えた時の姿勢です。股関節から上体を倒し、両腕をダラッと垂らします。その垂らしたところでグリップできるようスタンスをとります。上体はかがみ込まず出来るだけ起こします。体を硬直させず、両ひざを少し緩めておきます。硬直させないためには、グリップは握り締めないことです。」
アーマー
⑥アーマー:「最後にスイングについてですが、バックスイング時には左ひざを絞り、腰を回転して、肩を回します。トップではコックをしっかり行い、間を取ります。ダウンスイングには急がず右ひざを絞ります。コックをため、インパクトで一気に解いて、ムチ打つようにボールを叩きます。スイング中頭を動かさず、体重移動もしません。左ひざと右ひざをボールに向けて交互に動かします。たったこれだけのことです。脚を動かすと当たらないのではないかと怖がって棒立ちで打つアマチュアが実に多いです。しかしその結果として動きがギクシャクしてボールがとんでもない方向に飛んでいってしまいます。」
サルワカくん
ハム
アーマーは生涯多くのプロやアマチュアに信念をもってレッスンしていました。この揺るがない指導方針は自身が成功してきた実体験をもとに構築されたスイング方針だと思います。アーマーの伝えていることと、レッシュ理論(4スタンス理論)を重ねて考察していきます。
トミー・アーマーの4スタンスタイプ
4スタンスタイプとは、レッシュ理論の中の1つで人間の身体の使い方を4つのタイプに分けたものです。
アーマーの③~⑥のグリップ・アドレス・スイングの話から、膝を柔らかく使い体重移動はせず、コックをしてスイングすることがわかります。これは分かりやすくB1タイプ(後ろ重心内旋型)の特徴がでています。
B1タイプは腰に重心があるので、足の上に腰をドシッと乗せて安定させるとひざがフリーになります。なので構えた時に「両ひざを少し緩めておきます」とか「左ひざと右ひざをボールに向けて交互に動かします」と「ひざ」というワードが多く出てくるのもこのためでしょう。
B1タイプはパラレルタイプの特徴である手を甲側に背屈すると、身体が動かしやすくパワーも出しやすくなるので、背屈=コックをします。それともう一つ、体重移動しないというニュアンスも、身体のスピンでパワーを出すパラレル特有のものです。
さらに、バックスイング時には左ひざを絞り、ダウンスイングには右ひざを絞るということは、脚を内側に絞るような形だと分かります。これもB1タイプの内旋型といわれる動作とピタッと合致してきます。
これらのことと、白黒動画でしたがトミー・アーマー本人のスイング映像を見てもB1タイプだと思われます。
アーマーの話からイップスを探る
これだけB1タイプらしくスイングしていますが、アーマーの話から気になることもありました。
- ③アーマー:「まずは左手です。左手を開き、人差し指の第二関節の上から小指の付け根の下の部分にかけて斜めにクラブをおきます。こうして小指から、薬指、中指、人差し指を包むように握ります。…」
- ④アーマー:「グリップができたら、クラブヘッドを上下させて手首のコックが楽に動けるようにします。右手と左手は常に一体化し、左手は小指、薬指、中指で握りクラブをコントロールし、右手で力を与えるというその動きを調和させるのです。…」
B1タイプの握りやすい手のパワーポイント、パワーラインは人差し指付け根辺りで、そこを垂直に通る手の平に近い部分です。要は「小指、薬指、中指」ではなく、「人差し指、中指側」で持ち、クラブに対して「斜め」ではなく「垂直」に持ちます。
- ⑤アーマー:「次に構えた時の姿勢です。股関節から上体を倒し、両腕をダラッと垂らします。その垂らしたところでグリップできるようスタンスをとります。上体はかがみ込まず出来るだけ起こします。…」
この「股関節から上体を倒す」ことと「かがみ込まず出来るだけ起こす」ことは相反することで、最初に上体を倒すことが1つ余計な動作をしているように思えてきます。しかも、B1タイプは股関節部分は安定部位なので、股関節から上体を倒すと、足の上から安定部位が外れてしまいます。なので「股関節から上体を倒す」ことを省いてしまってはどうでしょうか。
- ④アーマー:「グリップができたら、クラブヘッドを上下させて手首のコックが楽に動けるようにします。右手と左手は常に一体化し、左手は小指、薬指、中指で握りクラブをコントロールし、右手で力を与えるというその動きを調和させるのです。つまり、スライスが出ようが、フックが出ようが、それは左右の調和が出来ていないからであり、決してグリップは自分勝手に変えません。この正しいグリップが出来ているのなら、正しく体が動き、正しいスイング軌道になるはずなのです。気をつけるのは、トップで左手のグリップが緩まないことです。」
アーマーは「両手の一体化」をとても大切にしていました。これはレッシュ理論(4スタンス理論)における全体定理の中の「両手同圧」になりますが、一体化と伝える一方で、「左手でクラブをコントロールし、右手で力を与える」とかここには載せていませんが、「左手はしっかり握り右手はそえるだけ」と言っていたりもします。これでは、一体化は難しいのではないでしょうか。
アーマー
まとめ:トミー・アーマーのイップスを改善するとしたら
レジェンドに恐れ多いですが、もう亡くなっているので許してくれるでしょう。トミー・アーマーの改善点をあげていきたいと思います
ハム
- グリップは 小指、薬指、中指 → 人差し指、中指側 で両手とも持ちます
- グリップをクラブに対して 斜め → 垂直 に持ちます
- 構える時に、股関節から上体を倒す動作を省きます
- 左手や右手の役割を考えず、両手一体で考えます
もしトミー・アーマーがB1タイプで誤作動を生んだ原因がこの中にあったとしたら、レッシュ理論を使って自ら修正し復活することも可能だったのではないでしょうか。
しかも新たに何か動きを覚えるのではなく、意識を変えたり、余計なことを省くのに4スタンスタイプを活用するのです。4スタンスタイプを知ることは、自分の取り扱い説明書を知ることなのです。
脳を擬人化すると、自分に合った動きは脳が喜びより良いパフォーマンスが生まれ、自分に合わない動きは脳が悲鳴をあげてカラダを制御しにかかります。初期は些細なことでも、長年悲鳴をあげ続けた脳は、ある日突然イップスという形で誤作動を引き起こすことは必然のような気もします。自分のカラダは自分が一番知っていると思いたいですが、そんな時に自分の取り扱い説明書があれば選択肢がずいぶんと楽になり、イップスを未然に防ぐことも可能になります😊